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前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編 魔法学院の正門を通り、王女達の一行が入ってきた。 生徒達はそれに合わせて、杖を掲げる。 馬車が止まると、召使い達が駆けより、絨毯を降りてくる人物が進むべき道に敷く。 「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなーりぃーっ!」 その声に対し、馬車の扉を開いて出てきたのは―― 花にたとえれるような美しい少女ではなく、 灰色のローブに身を包んだやせっぽちの初老の男である。 これには流石の生徒達も失望。あからさまに侮蔑の目をしている。 だが、次に出てきた人物を見て歓声を上げる。 先に衛士が述べたように、彼女がトリステイン王国王女、アンリエッタである。 ブルーはその様子を眺めていた。他の生徒のように熱中して見ているのではなく。 「あれがトリステインの王女か」 隣にいるルイズに一応確認の意で問いかけるが、反応はない。 ルイズは顔を赤くして、何かを見つめていた。 気になり自らもその先へ視線を傾けると、そこには羽帽子を被った貴族の姿があった。 グリフォンにまたがっていた。余り見掛けたことはないが、此方では一般的なのだろうか? その後特におかしい事などは起こらず、夜になった。 「ルイズ、どうかしましたか?」 返事はない。ルイズはあれからずっと変な調子だった。 ベッドに座り込むと俯いたまま出会ったかと思うと、 次には何も言わずに外に出て行き、 帰ってきたら「愛がアップ!」と叫んだり、 そのまま赤い顔をしてベッドに飛び込んだりと、 もはや変というか精神の病を疑うレベルの行動をしていた。 その妙な様子のルイズを眺めていると、ドアがノックされた。 ルージュの声を聞くと、そのドアをノックした人物は 涼しげな感じのする声で言った。 「あ、あれ……?すいません、間違えました」 ドアのまえにいた人物は詫びると、そのまま去ったらしい。 音がなかったので解らなかったが。 そのまま、暫く時間がたつと、再びドアがノックされる。 「開いてますよ」 「すいません、ここはルイズ・フランソワーズの部屋ですよね?」 さっきの人物だったようだ。 中にいる人物も知らずに尋ねてきたのだろうか。 ルイズの方を見ると、なにやらはっとした顔をしていた。 妙な様子はもう無く、立ち上がるとドアに駆けより、開けた。 そこにいたのは頭巾を被った少女だった。 「あなたは」 その少女は大声を上げかけたルイズを、 人差し指を口に当てることで制止し、 マントの内側から杖を取り出すと、それを振った。 光の粉が周囲に舞う。 ルイズはその様子を見て呟いた。 「……ディティクト・マジック?」 「何処に耳が、目があるか解りませんからね」 その少女はそういって、頭巾を下ろす。 そこにあったのは、アンリエッタ王女であった。 「姫殿下!」 ルイズは慌てて膝をつく。 「久しぶりですね、ルイズ・フランソワーズ」 その後の話はよく聞いてなかった。 他人の思い出話など、大抵の場合は他人が聞いてもさして面白くない物である。 さらになにやら友情を深めているのかよくわからない二人の様子を見ていると、 なにやら心が冷静になっていく。 突然、アンリエッタに自分のことが言及されるまで、呆然としていた。 「そこの彼、あなたの恋人なのでしょう? 私ったら懐かしくて、つい粗相をしてしまったみたいね」 「違います、彼は私の使い魔です」 「……使い魔?」 アンリエッタは、此方をじっくりと見てから再び言う。 「人にしか見えませんが」 「人ですから」 ルージュは返す。 そう返すと、アンリエッタはルイズの方を見て笑った。 「ルイズ・フランソワーズ。あなたは昔から少し変わってましたけど、 今もそうみたいね」 それを言うまでは笑っていたが、 ため息をつくとだんだんと表情に影を落とす。 「姫様、どうかなされたんですか?」 「いえ、何でもないわ、嫌だわ、わたくしってば――」 また友情の確かめ合いでも始まるのかと思って、 ルージュは考えることを取り敢えず止めた。 だが、暫くたって妙な流れになってきたので思考を再開した。 どうも、彼女はゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになったらしい。 それはアルビオンの反逆勢力たる貴族派、レコンキスタに対抗するための同盟、 それを強固かつ確実な物にするためだという。 だが、その結婚を台無しにしてしまいうる一つの手紙が、 レコンキスタに滅亡寸前まで追いやられている王党派の元にあるらしい。 取り敢えずブルーは言った。 「それを取り返して来いと」 「恥ずかしいことですが、そう言うことになるのでしょう」 「……えーと……ブルー、姫様に失礼な口をきかないで頂戴」 そう言ってから、ルイズは真剣な表情をしてアンリエッタの方に向き直る。 「早速明日の朝にでもここを出発します」 「申し訳ありません。ルイズ・フランソワーズ。この恩には答えなくてはなりませんね」 「姫様、気にしなくて良いと言われたのは姫様でしょう?」 「……そうでしたね。少々お待ちいただけますか?」 というと、ルイズの机の上にあった羊皮紙とペンを使い、 手紙を書き始める。途中、何かを戸惑ったようだった。 ルイズがその様子をじっと見ていた。 手紙を書き終えると彼女はそれをルイズにそれを渡した。 「この手紙を、ウェールズ皇太子に渡してください。 件の手紙を必ずや返していただけるはずです。 そして、これもお持ち下さい」 彼女は自身の右手の薬指から、指輪を外すとそれもルイズに手渡した。 「母君から頂いた『水のルビー』です。 旅の資金が心配ならば、これを路銀に換えてください」 ルイズが頭を下げる。 「この任務にはトリステインの未来がかかっています。 あなた方の行く先に、始祖の祝福があらんことを祈ります」 薄暗い部屋に小さな音が聞こえる。 締め切られたその部屋は、どこか蒸し暑い。 その部屋のベッドの上に、二人の少女がいた。 少女の片方……緑色の髪をした彼女は、どこか人間離れした色気を放っている。 もしかしたら、この部屋の蒸し暑さには、 彼女のそれが混じっているのかも知れない。 彼女は、もう一人の少女に覆い被さるようにしていた。 そのもう一人の少女はと言えば、 少女と言うには少々幼すぎるかも知れない顔立ちと外見であった。 今は、その頬を朱く染めている。 緑色の髪の彼女――アセルスの手が、 青い髪の少女――タバサの朱くなっている頬に触れる。 タバサの口から言葉にならない声が漏れる。 アセルスはその様子をじっくりと見てから、タバサの頭を愛おしそうに撫でる。 タバサが潤んだ目でアセルスを見つめ返す。 それを妖しい微笑みで返してから、アセルスはタバサの濡 (省略されました。続きが読みたければ人数分ブリューナクください) お解り頂いているとは思うが、全て半妖様の妄想である。 なお、この妄想はキュルケの三角蹴りによって中断される。 本能的にやばいと思ったらしい。 キュルケ、それで正解だ。君は正しいことをした。 「だめね……タバサをあれと一緒の場所に置いておくことは出来ないわ」 しかし、タバサを連れ出そうとしても理由無しに動いてはくれないだろう。 無理矢理連れ出すのも気が引ける。 どうしたものか――そう考えているキュルケの目に、 馬に乗り出掛けようとしている二人組の姿が映った。 「あれはダーリン?……どこかに行くのかしら……そうだわ!」 朝から、ギーシュは剣を振っていた。昨日とは剣を変えてみていた。 冷静に考えたら、ただ振るだけで剣の腕が身につくわけ無いではないか。 トレーニングにはなるかも知れないが。 と言うわけで、ギーシュは図書館で一通り調べ物をしたのだった。 何せ魔法学院の図書館だからそう言う物を探すのは少々骨が折れたが、 探せばある物だ。ついでに、『土』の魔法に関するいくつかの書物も調べた。 その結果として、ある程度の技と、『土』の魔法の応用を身につける事が出来た。 が、そこで止まる。 「ふむ。せっかく身につけたのだから試してみたいが。 まさか決闘をするわけには行くまいしね……ん?あれはルイズとブルーじゃないか」 ルイズとブルーが、馬小屋から馬を連れ出し、なにやら準備をしていた。 どうも遠くに行くようだったが、ふむ、フーケの討伐に行った二人だ。 また学院長から秘密の任務でも請け負ったのだろうか? ギーシュはある一つのことを思いつき、彼女たちに近づいていった。 「ルイズ、アルビオンまではどのぐらいかかるんだ?」 「馬で二日って所ね」 「遠いな」 そんな他愛もない話をしていたら、後ろから声がかかった。 「やあルイズ、またどっかにいくのかね?」 二人が振り返ると、そこには細身の剣を腰にぶら下げたギーシュが居た。 「ギーシュ、何してるのよ」 「いや、どこかに行くのなら、僕も連れて行って欲しいんだ」 「何でよ」 「また秘密の任務でも請け負ったのかと思ってね」 ギーシュがそう言うと、ルイズは慌てて返す 「……そ、そんなわけ無いじゃない。何を言っているのかしら?」 「ふむ。秘密の任務でないなら僕がついて行っても大丈夫な筈だね?」 「だ、だめよ!」 「だが途中まで同行するぐらいなら構わないだろう? 一人では心細いからね」 食い下がるギーシュに、ルイズが言う。 「か、勝手についてくるなら好きにしなさいよ!」 それを聞いて、ギーシュが笑みを浮かべ返す。 「そうかい、ルイズ。 所で、何処まで行くんだい?」 「アルビオンよ」 「へぇ?そんなところまで、準備は出来てるのかい?」 「見て解らない?」 「しかし、アルビオンは今危険なはずだ。 大丈夫なのかね?」 「平気よ」 次に、ギーシュは変わらず自然な口調で聞いた。 「ところで、そんなところまで何をしにいくのかね?」 「手紙を取り返しに……あ」 「ふむ。やはり秘密の任務だったようだね」 ルイズは顔を赤くし、ギーシュは顔をほころばせる。 ブルーの顔には特に変化はなかった。 前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編
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「嘘・・・どうしてフーケが!?」 岩石を切り抜いて作られたラ・ロシェールそのものを素材にして錬金された 巨大ゴーレム。突如出現したそれの肩に長い緑髪をなびかせて座っている女は、 忘れもしない土くれのフーケだった。自分の言葉を中断されて少し助かったと 思ってしまい、ルイズはぶんぶんと首を振る。フーケは端正な顔を不機嫌に 歪めてルイズに答えた。 「実に親切なお方がいらっしゃってねぇ わたしみたいな美人はもっと世の中に 貢献しなくちゃいけないっておっしゃってね 牢から出してくれたのよ」 皮肉たっぷりにそう言って、フーケはじろりと隣を睨む。彼女の刺すような視線の 先にいたのは、白い仮面をつけた黒マントの貴族の男だった。フーケの言動に 一切の反応を示さず、腕を組んで冷厳とルイズ達を見下ろしている。 「個人的にはあんた達なんかとは二度と関わりたくないんだけどね これも仕事よ、恨まないことね!」 言うが早いか、ゴーレムの柱を束ねたような腕が高速で振り下ろされた。いつの 間にか己の剣を握っていたギアッチョは、ルイズを小脇に抱えるとベランダの 手すりを踏み台にルーンの力で数メイルを飛び上がった。直後岩で出来た ベランダを粉々に破壊したその拳に見事に着地して、ギアッチョはピクリとも 動かない表情のまま口を開く。 「やっぱりよォォ~~ オレは戦うのが性に合ってるみてーだなァァ」 「ちょ、ちょっと!どどど、どこ触ってんのよこのバカ!離しなさいよ!」 小脇に抱えられたままルイズがじたばたと騒ぐ。 「どこ触ろうと同じだろーがてめーの身体は 黙ってねーと舌噛むぞ」 「おなっ・・・!?」 ルイズの頭にガーンという音が響き渡った。心に深いダメージを負ったルイズの ことなどつゆ知らず、ギアッチョは戦闘態勢に入った眼でフーケ達を睨む。 足場にしている拳に振り落とされる前に、「ガンダールヴ」の脚力で一瞬のうちに 肩へと駆け上がる。デルフリンガーを持つ方向に身体をひねり二人まとめて 横薙ぎにブッた切るつもりだったが、 「チィッ!」 仮面の男が一瞬の機転でフーケの首根っこを掴んで後方へ落下した為、 デルフリンガーは虚しく宙を切った。ギアッチョは特にイラだった顔も見せずに 地面を覗き込む。レビテーションをかけたのか、男とフーケは無事に地上に 降り立っていた。フーケと結託しているのなら、仮面の男とその仲間には当然 ホワイト・アルバムのことは知られているだろう。もはや隠す必要もないと考えて ギアッチョはゴーレムを凍結しようとするが――下のほうから聞こえてきた怒声や 物音がそれを中断させた。 「どうやら・・・あいつらも襲われてるみてーだな」 放っておくべきか一瞬迷ったが、酒を飲んでいるならマトモに戦えていないかも 知れないと考え、ギアッチョは助けに行くことを選択した。もはや抵抗もしない ルイズを小脇にかかえたまま、見るも無残に破壊されたベランダから部屋に 飛び込み、扉を蹴破って廊下を走り、手すりを乗り越えて階段を飛び降りる。 果たしてギーシュ達は、全員無事に揃っていた。もっとも、テーブルを盾にして いる彼らの頭上では無数の矢が飛び交っていたが。 ギーシュ達と共にワルドがいたのを見て、ギアッチョはピクリと眉を上げる。 背格好といいタイミングといいあの仮面の男がワルドだとギアッチョは殆ど確信 していたのだが、どうやら自分の推理は間違っていたらしい。考え込む彼に 気付いて、ギーシュが声を上げる。 「ギアッチョ!無事だったのかい!」 その声でキュルケ達は一斉にギアッチョを見た。ギアッチョはフンと鼻を鳴らすと、 ルイズを引っ張ってキュルケ達の後ろに身を伏せる。 ギアッチョはフーケがいることを伝えたが、どうやらその必要はなかったらしい。 戸口からは思いっきりゴーレムの足が覗いていた。「それはともかく」と前置きして、 キュルケは鬱オーラ全開で俯くルイズを見る。 「ルイズ、あなた大丈夫?」 「・・・・・・尊厳を汚された・・・」 「は?」 意味が分からずに怪訝な声を上げるキュルケだったが、「一年後に後悔しても 許してあげないんだから」だの「まだ変身を三回残してるのよ きっとそうよ」だのと 肩を震わせながらブツブツと呟いているルイズを見てなんとなく事情を察した。 とりあえずルイズは放置することに決めて、彼女はギアッチョに向き直る。 「どうするの?ギアッチョ」 言外に「魔法を使うのか」と尋ねるキュルケに、ギアッチョは思案顔で黙り込んだ。 しかしギアッチョが結論を下す前に、ワルドが口を開く。 「諸君、このような任務は半数が目的地に辿り着けば成功とされる」 周りの状況などおかまいなしに本を読んでいたタバサが、それを受けてワルドを 見る。ぱたりと本を閉じると、キュルケ、ギーシュ、そして自分を指差して「囮」と 呟いた。ワルドは重々しく頷いて後を引き継ぐ。 「彼女達が派手に暴れて敵を引きつける 僕らはその隙に、裏口から出て 桟橋へ向かう」 その言葉に、ルイズが弾かれたように顔を上げた。 「ダメよそんなの!フーケもいるのよ!?死んじゃったらどうするのよ!」 「いざとなれば逃げるわよ それにわたし、今ちょっと暴れたい気分なのよね」 キュルケは余裕の笑みでそう嘯く。それに追従してタバサが「問題ない」と言い、 ギーシュは相変わらずガタガタ震えていたが、「いいい行きたまえよ君達! ぼ、ぼぼ僕はフーケのゴーレムに勝った男だぜ!」 と誰が見ても明らかに分かる虚勢を張り上げてルイズ達を促した。 「行って」というタバサの声と、「行きなさい」というキュルケの声が重なる。 ルイズはそれでも二の足を踏んでいたが、 「別にルイズの為にやるわけじゃないんだからね 勘違いされちゃ困るわよ」 というキュルケの発破で、何とか行く決心がついたようだった。「わ、分かって るわよ!」とキュルケを睨むと、「おーおー、素晴らしきは友情だね」と笑う デルフリンガーに二人で蹴りを叩き込んで走って行った。それを追ってワルドも 裏口へ去って行く。去り際ルイズが小さく呟いた「ありがとう」という言葉に 意表を突かれて一瞬顔が赤くなったキュルケだったが、コホンと一つ咳をすると すぐいつもの顔に戻った。 「それで、今度はどんなお言葉を下さるのかしら?」 未だ動かないギアッチョに余裕の仕草で笑いかける。ギアッチョは溜息を一つ つくと、彼女達に向き直って口を開いた。 「このまま死なれちゃ寝覚めが悪いんで忠告しといてやる ・・・命を賭けてまで戦おうとするんじゃあねーぞ」 慈悲の欠片も見当たらないような表情で、しかしギアッチョはそう言った。 「無理を悟ったらとっとと逃げろ 桟橋とやらで追いつかれたところでどうせ オレが何とか出来るんだからな」 一見どうでもいいような口調でそう言って、ギアッチョはガシガシと頭を掻く。 そうならない為に今まで隠して来たんじゃないのか、等と言う気は誰にも なかった。一様に真剣な顔で頷く三人に一瞥を向けると、彼は無言で ルイズ達の後を追った。 音を立てずに駆け去るギアッチョの後姿を見送って、キュルケはふぅと 溜息をつく。 「全く、この主にしてこの使い魔ありって感じよねぇ」 やれやれといった風に笑うキュルケに、タバサはこくりと頷いて杖を握った。 大きな音を立てて自分の顔を叩いて、ギーシュは一つ気合を入れる。 「よ、よし!行こうじゃないか二人とも!」 「ええ、火傷しない程度にね」 二人して杖を抜き放ち、ニヤリと笑いあった。
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「桟橋」の階段の先は、一本の巨大な枝に続いている。そこに吊り下げ られている船の甲板にワルドとルイズはいた。ギアッチョは左手に デルフリンガーを握ると、昇降の為に備えられているタラップに眼も くれずそのまま甲板に飛び降りる。着地の衝撃が身体を揺らすが、 「ガンダールヴ」の力はギアッチョにまるで痛みを感じさせなかった。 「便利なもんだな」と呟きながら剣を仕舞う。ワルドに視線を遣ると、 彼は遅いぞと言わんばかりの眼をこちらに向けていた。 「交渉は成功してるんだろーな」 「勿論」 ワルドは杖の先で羽根帽子のつばをついと押し上げ、舳先の方で 船員達に指示を出していた船長に声をかけた。 「船長、もう結構だ 出してくれたまえ」 船長は小ずるい笑みでワルドに一礼すると、船員達に向き直って怒鳴る。 「出港だ!もやいを放て!帆を打て!」 がくんという衝撃と共に船が浮き上がる。ギアッチョは舷側に乗り出して、 興味深そうに地上を見下ろした。ルイズの話では、船体に内臓された 「風石」とやらの力で宙に浮かんでいるのだという。徐々に速度を増して 遠ざかってゆくラ・ロシェールの明かりを眺めて、ギアッチョはキュルケ達の ことを考えた。あの三人とシルフィードなら、引き際を誤らなければ死ぬ ことはないだろう。しかしそう思いつつも、意思に反して彼の心はどこか ざわついている。今日何度目かの舌打ちをして、ギアッチョは去り行く港の 灯りから眼を離した。ボスを裏切って7人散り散りに別れたあの日以来、 こんな気分になることはもうないと思っていた。 どうしてこんな気持ちになる?彼女達が死んだところで自分にどんな不都合が あるというのだろう。暗殺者という軛を外れた彼が否応なく人としての心を 取り戻しつつあることに、ギアッチョは気付けない。 「クソ・・・気分が悪ィ・・・」 自由な片腕で欄干にもたれたまま、ギアッチョは不機嫌な顔で眼を閉じた。 包帯と軟膏を持って、ルイズは少し釈然としない顔で船室から甲板へ戻って きた。怪我人がいるから譲って欲しいと船長に頼んだのだが、薬は高いし 船の上では補充も効かないと言われて二倍以上の金額で買わされたのだった。 しかしまぁそれも仕方ないかなとルイズは思う。身近な国で戦争が起こっている このご時世、平民からすれば少しでも金は欲しいのだろうし、包帯や薬は アルビオンに輸出されて品薄になっているのかも知れない。船長ならちゃんと 船員に金を分け与えるだろうし、貴族としてこのくらいの支出はしなければ。 等と素直に考えている辺り、ルイズはまだまだ純粋な少女であった。 欄干にもたれているギアッチョの元へ、ルイズは足早に歩いて行く。 マストの下で、ワルドと船長が何事か話していた。「攻囲されて・・・」だの 「苦戦中・・・」だのという言葉が聞こえてくる。やはり戦況は芳しくないようだ。 どうやら手紙の所持者、ウェールズ皇太子はまだ生きて戦い続けてはいる らしい。しかしアルビオンの王党派は、もはやいつ全滅してもおかしくない 瀬戸際にいるという。脳裏をよぎった最悪の可能性に首を振って、ルイズは ギアッチョの元へ逃げるように駆け出した。 「左手、出して」 「ああ?」 後ろからかけられた言葉に、ギアッチョは気だるげに振り向く。両手に 包帯と軟膏を抱えてルイズが立っていた。 「包帯巻くのよ」 「・・・オレをミイラ男にでもする気かてめーは」 ギアッチョはじろりと包帯を見る。どっさりと抱えられたそれは、彼女のか細い 両腕から今にも転がり落ちそうだ。 「う・・・あ、明日の分もいるでしょ!そ、それに交換もしなきゃいけないし・・・ あと、えーと・・・・・・ああもう!とにかく左手出しなさいよ!」 「そこに置いとけ 包帯ぐらいてめーで巻ける」 どうでもいいようにそう言って、ギアッチョは再び空に顔を戻した。 ルイズは少しムッとする。わざわざそんな言い方をしなくてもいいではないか。 「左手出しなさいってば!」 ルイズは意固地になって繰り返す。 「てめーで巻けるって言ってるだろーが」 「自分じゃ巻きにくいじゃない!巻いてあげるって言ってるんだから大人しく 聞きなさいよ!」 「いらねーってのが分からねーのかてめーは いいからそこに置け」 「あんたこそ出せって言うのが分からないの!?いいから出しなさい!」 絶対巻いてやるんだから!と躍起になるルイズと全く巻かせる気のない ギアッチョは、一進も一退もしない攻防を続ける。無表情で拒否を繰り返す ギアッチョにいい加減疲れてきたルイズは、はぁと溜息をついて尋ねた。 「もう・・・どうしてそんな意地になるのよ」 借りを作るのは面倒の元だ、と言おうとしてギアッチョはハッとする。 ここはそういう世界ではないのだ。そしてルイズはそんな人間ではない。 進んで手当てをしておいて貸しを作ったなどと、考えすらしないだろう。しかし。 「・・・な、何よ」 ギアッチョはじろりとルイズを見る。 彼にも矜持というものがある。大の男が年端もゆかぬ――しつこいようだが ギアッチョはそう思い込んでいる――少女に包帯を巻かれる等という状況は とても容認出来るものではなかった。そんなギアッチョの心境を感じ取ったのか どうなのか、 「分かったわ・・・じゃあこうしましょう あんたが包帯巻くのをわたしが手伝うわ」 ルイズはそう言って、まるで名案でも思いついたかのようにえっへんと残念な 胸を張った。その拍子に次々と包帯が甲板に落ちて、ルイズは慌ててそれを 拾い集める。そんなルイズを見下ろして、ギアッチョはしょーがねーなと考えた。 借りがどうだと言うのなら、そもそも命を助けられた時点でこれ以上ない借りを 作っているのだ。借りを返すということで我慢してやることにして、ギアッチョは あくまで投げやりに口を開いた。 「・・・勝手にしろ」 「――ッ!」 ギアッチョの左腕を捲り上げて、ルイズは息を呑んだ。仮面の男の雷撃に よって、ギアッチョの左腕は見るも無残に焼け爛れていた。 「ひどい・・・」 ルイズは思わず声を上げるが、 「この程度で騒ぐんじゃあねー」 ギアッチョはことも無げにそう言って、ルイズの腕の中の包帯と軟膏を一つ 無造作に掴み取った。それらをポケットに突っ込むと、ショックを受けている ルイズを放置して船室へと入って行く。船員に言って水を貰い、痛みをこらえて 傷口を洗い流し軟膏を塗りつける。それから包帯を取り上げると、右手と口で 器用にそれを巻いていく。半分ほど巻き終わったところで、 「ひ、一人で何やってんのよあんたはーーーっ!」 ようやく正気を取り戻したルイズが飛び込んで来た。 「も、もうこんなに巻いてるじゃない!わたしも手伝うって言ったでしょ!?」 「だから勝手にしろって言っただろーが 来なかったのはおめーの勝手だ」 しれっと言ってのけるギアッチョに、ルイズの肩がふるふると震える。これは キレたか?と思ったギアッチョだったが、 「・・・何よ 手当てぐらいさせなさいよ・・・」 ルイズの口から出てきたのは、実に弱弱しい言葉だった。少し眼を伏せた 格好で、ルイズは殆ど呟くような声で言う。 「・・・姫様に頼まれたのはわたしなのに、わたしだけが何も出来ないなんて 最低よ・・・ あんたもワルドも、キュルケ達まで戦ってるのにわたしは何も 出来ずに見てるだけなんて、こんなのメイジのやることじゃないわ・・・ 挙句にわたしを庇ってこんな大怪我までされて・・・せめて手当てぐらい しなきゃ、わたし・・・!」 ルイズの言葉は、彼女の悔しさと申し訳なさを如実に物語っていた。 ギアッチョは改めてルイズを見る。俯いて立ち尽くすルイズの拳は、痛い ほどに握り締められていた。 「主人を庇うのが使い魔の仕事なんだろーが」 包帯を巻く手を休めてギアッチョは言うが、その言葉はルイズの傷をえぐる だけだった。 「そうだけど・・・そうだけど違うもん 使い魔だけど、あんたは人間だもん ・・・何よ 何でも出来るからって、どれもこれも一人でやらないでよ・・・ 一つくらい、主人らしいことさせてよ・・・」 ここまで深刻に悩んでいるとは思わなかった。ギアッチョはがしがしと頭を掻く。 ルイズはこう見えて責任感が強い。何も出来ずただ守られているだけの自分を、 彼女は許せないのだろう。 「・・・てめーでやれることをすりゃあいいんだ 拗ねることじゃあねーだろ」 「・・・拗ねてなんかないもん 使い魔の前で拗ねる主人なんていないもん」 拗ねながら落ち込むという若干高度なテクニックを披露するルイズに軽い 頭痛を感じたが、しかし一方でギアッチョにはルイズの無力感が痛いほどよく 分かる。フーケ戦で己の無力を痛感したギアッチョに、今のルイズはどうしても 捨て置けなかった。 自分を誤魔化すようにはぁと溜息をつくと、彼は左手をルイズに突き出した。 「・・・片手でやるのはもう疲れた 後はおめーがやれ 一度やると言ったんだからな、嫌だと言っても巻いてもらうぜ」 その言葉に、ルイズの顔が一瞬ぱぁっと明るくなる。それに気付いてルイズは ぷいっと怒ったように顔を背けて答えた。 「い、言われなくたってやってあげるわよ!しょうがないけど、言ったことは やらなきゃダメだもの ご主人様が直々に手当てしてあげるんだから、 かか、感謝しなさいよね!」 誰が見ても照れ隠しと分かる顔で早口にそう言って、ルイズはギアッチョの 右手から包帯の端をひったくった。手持ち無沙汰になったギアッチョはフンと 鼻を鳴らして眼鏡を押し上げると、何をするでもなく黙り込んだ。 まるで白磁のような手で、ルイズは包帯を巻いてゆく。未だに燃えているかと 錯覚するほどに熱い腕を、その冷たい指で冷ましながら。 たどたどしい手つきではあるが、出来うる限り優しく丁寧に巻こうと苦心している ことが十二分に伝わってくる。良くも悪くも、真っ直ぐな少女だった。 一心不乱に包帯と戦っているルイズを見下ろして、ギアッチョはふと思う。 ペッシを見守るプロシュートは、こんな感じだったのだろうかと。もっとも、 ペッシとルイズの容姿には本当に同じ人間同士かというほどの差はあるのだが。 「おめーも物好きな野郎だな」などと冗談交じりに話していたことを思い出す。 しかしあいつの気持ちが、今なら少し――本当にほんの少しだが、分かるかも 知れない。そのうち地獄でプロシュートに会ったら、「オレもヤキが回ったもんだ」 と言ってやろうかとギアッチョは思う。しかし少なくとも、手紙を回収するまでは そっちには行けそうにない。ならば当面はプロシュートに学ぼうかと彼は考えて みた。あんな時こんな時、あいつはどう説教していただろうか、どうフォローして いただろうか。「何でオレはこんなことをバカみてーに考えてんだ」と心中毒づき ながらも、ギアッチョはプロシュートの偉大さを痛感した。ギアッチョが覚えている だけでも、プロシュートは結構な回数ペッシをブン殴っていた。にも関わらず、 ペッシはプロシュートを変わらず「兄貴」と慕っていたのである。 ――カリスマってヤツか? いや、それはリゾットだろうか。まあどの道、とギアッチョは結考える。どの道 自分にプロシュートのような真似は出来ない。特に額に額を当てる彼の得意技 など、ギアッチョがやれば恫喝にしか見えないだろう。 オレはオレで適当にやらせてもらうとしようと結論づけて、ギアッチョは己の 左腕に眼を落とす。包帯は既にその大部分を包んでいた。 ついでにプロシュートはこの状況ならどうするだろうかと考えてみる。 「『手当てした』なら使ってもいいッ!」と真顔で言うプロシュートが何故か思い 浮かんで、ギアッチョは思わず口の端がつり上がった。そんなギアッチョと偶然 眼が合って、彼の笑みをどう解釈したものか、ルイズは少し顔を赤らめて眼を 逸らした。
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ゼロの使い魔~三美姫の輪舞~ (全12話終了) 01 使い魔の刻印 02 森の妖精 03 英雄のおかえり (04 噂の編入生) 05 魅惑の女子風呂 06 禁断の魔法薬 07 スレイプニィルの舞踏会 08 東方(オストラント)号の追跡 09 タバサの妹 10 国境の峠 11 アーハンブラの虜 12 自由の翼
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前ページ次ページゼロの使い魔人 朝の洗濯で使った水汲み場に立ち寄り、掃除で付いた汗と汚れを洗い流した龍麻は、 幾分さっぱりとした足取りと表情で食堂へと向かっていた。 扉を押し開け、室内へと足を踏み入れる。 既に生徒らの大半は食事を終えてる様で、朝に知り合ったシエスタを始めとするメイド達がデザートを配っている。 テーブルの一角では、金髪の少年――ギーシュと呼ばれていた彼を囲んで出来た人垣からの、何やら囃立てる様な声を余所に 龍麻は、人目を引く桃色がかったブロンドの髪の持ち主の元に向かい、声を掛ける。 「部屋の後始末は終わったぞ」 「そう。随分とモタついたようだけど、まあいいわ。アンタの言う通り、ご飯は外に置いてるから。 食べ終えたら、呼ぶまで外で待ってなさい」 「解った」 ルイズの声に簡潔に応えて、踵を返す。 先程の雑談の輪の側を龍麻が通り掛かる直前。 ギーシュのポケットから何かが落ち、テーブルの下に転がるのが視界の隅に映った。 何かの液体が詰まった小壜である。無視しても良かったが一応、龍麻は床を指して声を掛ける。 「おい。今、ポケットから壜が落ちたぞ」 距離的に十分聞こえた筈だが、当の落とし主はそっぽを向いて応えない。 動こうとしないギーシュに代わり、龍麻は床に転がった小壜を拾い上げ、 「ほら、落とし物だ。気が付かなかったのか?」 目の前に置いてやる。 …が。その返答は剣呑な視線に続いての、 「これは僕のじゃない。君は何を言っているんだね?」 という不機嫌な声である。 そして、その壜を見た同級生らが口々に騒ぎ出す。 「お? その香水は、もしや、モンモランシーの香水じゃないのか?」 「そうだ! その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分の為だけに調合してる香水だぞ!」 ――そこからの流れは、急激かつ波乱含みの…一言で言えば、修羅場であった。 まず、後ろのテーブルに腰掛けていた小柄な栗色の髪の少女がギーシュの前で泣き始める。 そのケティなる少女は、ギーシュの言い訳に耳も貸さず平手打ちを見舞い、食堂から走り去る。 更にはテーブルの向こうにいた、豪勢な巻き髪の少女が足音も高くギーシュへと歩み寄る。 「モンモランシー。誤解だ。彼女とは只、一緒にラ・ロシェールの森へ遠乗りをしただけで……」 等と手を振り、首を振り話掛けるギーシュであったが、当のモンモランシーなる少女は それを一顧だにせず、掴んだワインの瓶の中身を ギーシュの頭にぶちまけた後、 「嘘付き!」 の一言をぶつけ、やはりギーシュの前から足早に立ち去っていった。 微妙な沈黙が室内を満たす中、男女問わず複数の視線がギーシュへと集中し……。 「あのレディ達は、薔薇の存在の意味を理解していないようだ」 なぞと、ハンカチで顔を拭いつつ宣うと、食堂中に脱力感に似た空気が充満する。 (……。天然か真性か。どっちにしても、関わりたくは無いな) 長居は無用と、龍麻が一歩を踏み出した時。 「君、待ちたまえ」 背後からの声に、顔を半分向けて応じる。 「なんだ?」 「君が軽率に、香水の壜なんかを拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷付いた。どうしてくれるんだね」 等と、龍麻の予想もしない台詞を言い立てる。 「あのな。そもそも、あの二人に責められるだけの事をやったのは、 お前であって俺じゃない。他人に責任を問える事か?」 言い掛かりも大概にしろ…とのニュアンスを言外に含め、即座に言い返す龍麻。 「その通りだギーシュ! お前が悪い!」 誰かがそう言うや、取り巻く生徒らが一斉に笑い出す一方、ギーシュの顔色が急変する。 「いいかね君? 僕は君が香水の壜をテーブルに置いた時、知らないフリをしたじゃないか。 話を合わせるぐらいの機転があってもよいだろう?」 「そうやって他人を難詰する前に、まずあの二人に謝りに行くのが、 人としての誠意や常識じゃないのか? 傷付けたって自覚があるんならな」 得手勝手な詭弁には正論で返すが、ギーシュはそれに動じるどころか露骨に見下した態度で鼻を鳴らす。 「ああ、君は……確か、あのゼロのルイズが呼び出した、平民だったな。 平民に貴族の機転を期待した僕が間違っていた。行きたまえ」 「貴族だ平民だの関係あるか。そんな風に自分の非を認めず、外面を取り繕う事しかしないから、 その有様なんだろう。お前の様に自分が可愛いだけの人間が、真に他人の心を惹いたり、掴めるもんか」 龍麻とて子供相手に大人気ない…と思わないでも無いが、ギーシュの言動に対する不快感が先に立つ。 自然と口調は厳しくなり、ギーシュを含めた周りの人間からの射込む様な視線が龍麻へと飛ぶ。 「…どうやら、君は貴族に対する礼を知らない様だな」 「礼を払って貰える様な事をした覚えがあるのか? 責任転嫁や自己正当化も度が過ぎるとみっともないし、笑えないぞ」 完全な、売り言葉に買い言葉。 「――よかろう。君に礼儀を教えてやろう。丁度いい腹ごなしだ」 と、ギーシュは外套を翻し、自信たっぷりな表情で立ち上がる。 「脛齧りの孺子が他人に礼儀を教える? 俺の前にお前こそが、人間関係やら節度って物の意味を学ぶべきじゃないのか?」 睨み合い、一言ごとに毒気と敵意が両者の間で濃度を上げていく。 「ヴェストリの広場で待っている。準備が出来たら、来たまえ。……その無礼に相応しい報いを与えよう」 ギーシュの他、半ダース程の人間が悠然と食堂から出ていき、一人はその場に残った。 室内を満たすざわめきがいや増す一方で、嘲笑、侮蔑、呆れ等を存分に込めた 貴族達の視線が、龍麻の全身に降り注ぐ中。 「あ、あなた、殺されちゃう……。貴族を本気で怒らせたら……」 シエスタがおののき、怯えた顔で呟きながら、龍麻から後ずさって離れるのと入れ違いに。 「アンタ! 何してんのよ!見てたわよ! なに勝手に決闘なんか約束してんのよ!」 人垣を掻き分け、ルイズが龍麻の前に立つ。 「別に。単に、互いに持つ見解や良識に責任の所在の相違だよ」 平然と返す龍麻に、ルイズはやれやれと肩をすくめつつ、溜息をついてみせる。 「謝っちゃいなさいよ」 「どうしてだ?」 表情一つ変えず答える。 「怪我したくなかったら、謝ってきなさい。今なら許してくれるかも知れないわ」 「両成敗なら兎も角、俺が一方的に諂らわなきゃならん道理は無いね。それ以上に…此所で 悪くも無い頭を下げて、自分は正しい、何でも思う通りになる等と、野郎の増長と勘違いを認める方が間違いだ」 「いいから」 と、ルイズは口調を強め、龍麻を見上げる。 「真っ平御免だ」 「わからずやね……。あのね、絶対に勝てないし、あんたは怪我するわ。いや、怪我で済んだら運がいいわよ!」 「そうかい。けど、考えるのと事実と結果は必ずしも、同じじゃないぞ」 「聞きなさい! メイジに平民は絶対に勝てないの!」 「絶対、ね。例えどんな異能を持とうと、使うのは人間だ。 自ずと隙や限界も生まれるって物だ。……で、ヴェストリの広場ってのはどこだ?」 「こっちだ。平民」 龍麻の声に、見張りに残ったらしい生徒が顎をしゃくる。 「ああもう! 本当に! 使い魔の癖に勝手な事ばっかりするんだから!」 ルイズの怒声を背後に聞きながら、龍麻は食堂を出た。 ――そんなゴタゴタが沸き起こる、その少し前……。 過日の『使い魔召喚儀式』の監督であった、コルベール教諭は多忙であった。 彼は、自身の教え子が召喚び出した、平民とおぼしき青年…厳密には、その左手に刻まれた 未見のルーンに興味を抱き、それに関する資料を求め、先人の知恵と記録が収められた学院内の図書館に 夜を徹して籠もっていたのだ。 ……膨大な書籍の山と向き合った末、彼は長らく手に取られる事の無かった一冊の古書を探り当て、 その内容と手にした件のルーンを書き留めた紙片とを照らし合わせた直後、 ある種の興奮と動転が入り交じった顔で、上司の元へと馳せ参じたのだった。 ――学院長室。 部屋の主にして、諸国に名を轟かせる偉大なる老メイジ…それが、オールド・オスマンである。 ……が、その威厳や存在感も何処へやら。彼の一日は申し訳程度の書類処理とそれに倍する居眠り、 そして秘書官たるミス・ロングビルへのセクハラで潰れるのが殆どであった。 この日とて例外では無く、自分の使い魔による覗きと直接に撫で回す…という狼藉の末に、 ミス・ロングビルからの容赦無い折檻…もとい、「実力行使」を受けていたその時に、 息せききって飛び込んで来たのが、コルベール教諭である。 「大変な事なぞ、ある物か。全ては小事じゃ」 …等と、一分前迄の醜態を細片も見せない余裕を漂わせ、興奮するコルベール教諭を迎えたオスマン学院長であったが、 コルベール教諭が持参した文献……『始祖ブリミルと使い魔達』の名と、その内容を聞くや傍らに立つ秘書に退室を促すと、 それ迄の色ボケ爺的な表情と雰囲気は影を潜め、冷静な知性と重厚な為人がそれに取って変わる。 「……詳しく説明するんじゃ。ミスタ・コルベール」 ―――ヴェストリの広場。 それは、学院内に聳え立つ『風』と『火』の塔の間にある広場の名称である。 本来、西向きで人が足を向ける事の少ない閑散とした場所だったが、この日ばかりは 予期せぬイベントの会場となった事から、黒山の人だかりであった。 「諸君! 決闘だ!」 薔薇の造花を手に、ギーシュは高々と声を張り上げると、無責任な喝采やら歓声が乱れ飛ぶ。 「ギーシュが決闘するぞ! 相手はルイズの平民だ!」 場の喧騒と興奮は、もう一方の当事者…龍麻の到着で更に高まる。 誰一人、互角の闘争になるなどとは思ってはおらず、場の興味と関心は一つしか無い……。 ――即ち。生意気な平民が散々に叩きのめされた末、慈悲を乞い縋る醜態を見る為に集まったと断言していい。 手を上げ、笑みを振り撒き、観客に応えていたギーシュが、初めて龍麻を見る。 「取り敢えず、逃げずに来た事だけは、褒めてやろうじゃないか」 「もう少し、気の利いた事を言ってくれ。正直、その台詞は聞き飽きてんだ」 歌うかのような口調のギーシュの挑発に、龍麻もやり返す。 「ふん……。では、始めようか」 「その前に確認するが。ルールはあるんだろうな?」 「勿論さ。君が前非を悔い、僕に詫びるか、あるいはどちらかが動けなくなるか…。 そして、僕がこの薔薇を地に落とすか……。だよ」 余裕の笑みを浮かべて言い放つギーシュ。 「そうかい。判りやすくて助かるよ。…手加減は下手だからな」 龍麻も又、ゆっくりと構えを取る。 もう何百、何千回と繰り返した挙動。己が血肉となった、その《力》を呼び醒ます。 ――奇しくも状況は、六年前の春に似ていた。 あの、忘れられぬ一年を過ごした学校への転校初日。ならず者達に絡まれ、人気の少ない 体育館裏に連れ込まれて、立ち回りを演じた事を思い出し、龍麻は内心苦笑する。 「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね」 ギーシュが手にした薔薇の花を振ると、舞い飛んだ一枚の花弁が 一瞬にして形とサイズを変え、ヒトの形を取るとギーシュと龍麻の間に立った。 ――それは鈍色に輝く肌を持つ、甲冑を纏った女性を象った彫像。 「こいつは……式神か!?」 初めて目にする眼前の“それ”に、龍麻は過去の経験と知識から最も近いと思われる物を当て嵌める。 。 「言い忘れたな。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。 従って青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手しよう」――それが、開戦の号砲となった。 構えを崩さぬまま、相手との間合いを慎重に推し量る龍麻に、戦乙女の名を与えられた戦士が襲い掛かる――。 それとほぼ、同時刻。 「…始祖ブリミルが使い魔『ガンダールヴ』に行き着いた、という訳じゃな?」 学院長室にて、コルベール教諭の説明を受けたオスマン学院長は、例のルーンが書かれた紙と文献を交互に眺める。 「そうです! あの青年の左手に刻まれたルーンは、伝説の使い魔『ガンダールヴ』に刻まれたモノと全く同じであります!」 「で、君の結論は?」 「あの青年はガンダールヴです! これが大事でなくて、なんなんですか! オールド・オスマン!」 口角唾を飛ばして力説するコルベール教諭に同調せず、オスマン学院長は腕を組み、思慮深げに息を吐く。 「確かに、ルーンが同じじゃ。ルーンが同じという事は、只の平民だったその青年は、『ガンダールヴ』になった……。 と、いう事になるんじゃろうな」 「どうしましょう」 「始祖ブリミルの記録を疑う訳ではないが……。如何にルーンが同じだといえど、 そう決め付けるのはちと、早計に過ぎはせんかね?」 「それも…そうですな」 教師二人の会話が途切れたその時、足音に続きドアがノックされる。 「誰じゃ?」 扉越しに、先程退室した秘書官の声が届く。 「私です。オールド・オスマン」 「なんじゃ?」 「ヴェストリの広場にて、生徒による決闘が行われ、大きな騒ぎになっています。 止めに入った教師もいましたが、生徒達に邪魔されて、止められずにいます」 澱み無い報告を聞き、オスマン学院長はうんざり顔で頭を振る。 「……全く。暇を持て余した貴族程、性質の悪い生き物はおらんわい。で、誰が暴れておるのだね?」 「一人は、ギーシュ・ド・グラモン」 「ああ、グラモンとこのバカ息子か。親父も色の道では剛の者じゃったが、息子も輪を掛けて女好きと来た。 大方、女の子の取り合いじゃろうて。相手は誰じゃ?」 「……それが、メイジではありません。ミス・ヴァリエールの使い魔の青年です」 想像外、しかも先程迄話し込んでいた人物の名が出た事に、両者は期せずして困惑と驚きの表情を互いの顔に見出だす。 「教師達は、決闘を止める為に『眠りの鐘』の使用許可を求めておりますが」 それを聞いたオスマン学院長は、片方の眉を跳ね上げると憮然たる声を出す。 「アホか。たかが喧嘩一つ止めるのに、秘宝を持ち出す者がおるかね。放っておきなさい。 …まあ、結果如何によっては、当事者への処分も考えるがのう」 「わかりました」 秘書官の足音と気配が去ったのを確かめ、コルベールは上司に向き直る。 「オールド・オスマン」 「うむ」 頷くが早いが、呪の詠唱と杖が振られる。 壁に掛けられた大鏡が輝きを放つと、そこにヴェストリ広場の現況が映し出された。 前ページ次ページゼロの使い魔人
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【ゼロの使い魔】からの出典 ルイズの杖 タバサに支給された。 エロ凡パンチ・ 75年4月号 ルパン三世に支給された。 才人の世界の30年前のエロ本だったが、ハルギケニアでは『召喚されし書物』と呼ばれていた。 破壊の杖(M72ロケットランチャー) ハクオロに支給された。 アメリカ製携帯式使い捨てロケットランチャー。1発分しかない。 ベトナム戦争の頃登場した兵器の為、現在ではやや旧式の感がある。 大変軽い(重量は発射筒が約2.5kg、弾体が約1.8kg)が、軽装甲車両程度ならば簡単に撃破できる破壊力を持つ。 惚れ薬 エルルゥに支給された。最初に彼女がこれを見つけたときのリアクションはもはや伝説。 異性にのみ有効であり、飲んでから初めて視界に入れた人間を好きになる。 効力は長くて一時間程度。量は一回分のみ。
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「機神飛翔デモンベイン」の二闘流(トゥーソード/トゥーガン) ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-01 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-02 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-03 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-04 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-05 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-06 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-07 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-08 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-09 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-10 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-11 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-12 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-13 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-14 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-15 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-16 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-17 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-18 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-19 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-20 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-21 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-22
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前ページ次ページゼロの使い魔外伝‐災いのタバサ‐ 白月と赤月が浮かぶ、幻想的な夜空。 その夜空を、月光に照らされた複数の黒い影が飛んでいる。 その影はけたたましい叫び声を上げながら翼を大きく羽ばたかせ、目的地へ向かっていた。 その影の中の、80メイルをも超える巨大な個体の背中で、青く短い髪をなびかせ、少女が悠然と本を広げている。 影達の主人、シャルロット・エレーヌ・オルレアン、『雪風のタバサ』である。 タバサは本から顔をそらし、周囲を飛ぶ影に向かって一言呟く。 「うるさい」 影達はタバサの呟きを聞き、一斉に叫ぶのをやめる。 主人の機嫌を損ねてしまえば、食事を抜かれてしまうからだ。 辺りに静けさが戻り、タバサは再び本へ視線を落とす。 その本には、こう書かれている。 『超遺伝子獣』 ―― 超古代文明による遺伝子操作の結果の産物である。 単為生殖ができる、つまり単独で卵を産み、卵から産まれた個体も体長は数メイルあり、しかも仲間をも捕食してどんどん成長する。 頭はやや平たく、幅広くなり、目は目立たない。地上での活動も自由自在である。 地上を走り、翼を振り回して殴り掛かり、低く飛び上がって足の爪で攻撃をかけることもある。 また、自己進化能力があり、成長した個体は眼に遮光板の様な物を持ち、太陽光線も平気になる。 ―― タバサの使い魔達、それは異世界で『災いの影』と恐れられている超遺伝子獣、『ギャオス』であった。 タバサは、成体のギャオスをサモン・サーヴァントで異世界から召喚し、使い魔の契約を交している。 さらに、成体であるため卵が産まれ、産まれたギャオス達にも使い魔のルーンが刻まれていた。 しかも、最初に呼んだギャオスも、新たに産まれたギャオス達もタバサに異常になついており、片時も離れようとしない。 そのため、タバサはギャオス達を率いて目的地であるガリアへ向かっていた。 タバサが本を読み終わると、周りを飛ぶギャオス達が再び騒ぎ始める。 どうやら空腹になっているようだ。 「……ついたらご飯」 タバサの呟きに、ギャオス達は喜び、翼を折りたたみ弓状になると、目的地ガリアへ向かって突っ込んでいった。 ガリアの首都リュティスは、人口三十万を誇るハルケギニア最大の都市である。 その東の端に、ガリア王家の人々の暮らす巨大な宮殿、ヴェルサルテルが位置している。 そこから少し離れたプチ・トロワで、王女イザベラがあくびをしながらタバサの到着を待っていた。 「あのガーゴイルはまだ来ないの?」 「シャルロット様は――」 侍女が告げようとした瞬間、天井を破壊しながらギャオスが轟音をたて落下してくる。 イザベラと侍女達は悲鳴をあげながら慌てて逃げだした。 プチ・トロワの前庭に、無数のギャオスが降り立った。 数匹が勢い余って墜落したようだが、頑丈だから大丈夫だろう。 「お、おかえりなさいませ。シャルロット様」 タバサに敬礼する衛士がいたが、他の衛士はたしなめない。 あまりの出来事に呆然として固まっているからだ。 「この子達に食事を」 タバサは敬礼をした衛士にそういって、ギャオス達へ顔を向ける。 庭はギャオス達で埋め尽され、上空にも無数のギャオスが羽ばたきながら旋回している。 ギャオス達の食事を任せると、タバサはつかつかと建物の中へ入っていった。 前ページ次ページゼロの使い魔外伝‐災いのタバサ‐
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夜。ギアッチョはベランダの手すりに背中を預けて、あおむけに空を見上げていた。 「一つだけの月なんざ、もう長く見てねえ気がするな・・・」 片手に持ったワインを飲み干して、柄にもないことを考える。 グイード・ミスタとジョルノ・ジョバァーナ、あの二人と戦った夜、たった一つの地球の 月は自分を照らしていたのだろうか。ついぞ空など見上げなかったことを思い返して、 ギアッチョは首を振る。 黒い手袋に三角形に覆われた己の右手に、ギアッチョは眼を落とした。この手で 無数の人間を葬って来たことを思い出す。対抗組織の人間を、彼は腐るほど 殺して来た。しかしその一方で、組織の障害となるというだけのやましいところの ない人間をその手にかけたことも一度ならずあった。 罪悪感はない。後悔もない。ギアッチョは、ただ生きたかっただけだ。パッショーネの 庇護なしには生きられない世界に絶望し、殺さなければ生きられない世界に絶望 しても尚、ギアッチョは生きたかった。唯一つの拠り所で、リゾットのチームで、 なんとしても生き抜きたかった。だからギアッチョは、人が牛を、豚を、鶏を 殺すように人を殺した。殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、 殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して――そして最後に殺された。 この世を修羅道と見紛わんばかりの凄絶な人生だった。ギアッチョにとって殺人は、 もはや呼吸と同じほどに当たり前の行為としてその身に染み付いている。まともな 人の心など、とうの昔に消え去ったはずだった。 しかし。 ならばなぜ、自分はルイズに付き従っているのだろう。ルイズを庇い、叱り、助けた のだろう。ギーシュを殺さなかったのは何故だ?キュルケを叱ったのは?タバサを 助けたのは? リゾットチームのほかには、ギアッチョの世界には彼にとってどうでもいい人間か、 そうでなければ殺すべき人間しかいなかった。何故なら彼は暗殺者だったからだ。 イタリアにいてさえ、彼は災禍を振り撒く魔人だった。魔人であらねばならなかった。 別の世界に召喚されようが、使い魔として契約をしようが、彼の思考は、言動は 暗殺者としてのものだった。キュルケが殺されようが、タバサが身代わりに なろうが、ルイズが死んでしまおうがどうでもいいはずだった。なのに、何故自分は 彼女達を助けた? ――・・・贖罪のつもりってわけか? 後悔していないと思っていても、どこか心の奥底でわずかに罪悪感を感じていたの だろうか。彼女達を助け導くことで、無数の犠牲者への罪滅ぼしをしているのだろうか。 しかし、ならば死ねばいいだろう。例え何万人の命を救ったところで、ギアッチョが 殺した人々が蘇るわけではない。彼らが願うものは唯一つ、ギアッチョの死である はずだ。 それもいいかもな、とギアッチョは思う。イタリアに戻ったところで、もうどこにも彼の 居場所はない。そしてイタリアで生きる意味も、もはやありはしない。仇を討つ意味も また、存在しない。彼らはその命と誇りの全てを賭けて戦い、そして負けたのだから。 みっともなく再戦を挑むなどということは、彼らを侮辱する行為でしかないと ギアッチョは思っている。 ブルドンネ街のあの薄汚い裏路地のような場所で、惨めに哀れにのたれ死ぬこと こそが、自分に相応しい末路だ。この手で消した数え切れない命は、もはや ギアッチョが一秒でも早くその命を絶つことを願っているだろう。 ベランダから地面を見下ろして考える。氷の槍を作って飛び降りれば、それだけで 死ぬことが出来るだろう。ギアッチョは虚ろなまなざしで、数秒地面を見つめた。 ゆるゆると、実に緩慢な動作でギアッチョは顔を上げる。引き結ばれていたその 口からは、「・・・クッ」という声が漏れる。 「クックック・・・ どこにでもいるもんだよなァァ 全く度し難い人間ってのはよォォーー」 全然理解が出来ないことだが、自分が死ねばルイズはまた泣くだろう。自分を 友だと言ったギーシュはどうだ?キュルケとタバサは?一体どんな顔をするものか 自分には分からないが、バカみたいに真っ直ぐな奴らだ、また突っ走って危ない目に 遭うだろう。任務の情報が漏れている上に既に刺客が差し向けられていることを 思い出して、ギアッチョはやれやれと呟いた。結局自分は、どこまでも悪人なのだ。 いくら罪悪感を感じようが、いくら良心の呵責に苛まれようが、結局は自分の意思で 己の生死を決定出来る。自分の意思の赴くままに何かをすることに、微塵の躊躇も ありはしない。 ギアッチョは静かに笑いながら、己の左手に眼を向けた。そこに刻まれたルーンは、 使い魔の契約の証だった。 ――オレがこの手で命を救ったんだぜ 笑える冗談じゃあねーか ええ?おめーら・・・ リゾットの奴は責任をまっとうしろと言うだろう。プロシュートの野郎はマンモーニを 鍛え直してやれと言うかもしれない。メローネのバカはオレと代われと言いそうな 気がする。イルーゾォは、ホルマジオは、ペッシは、ソルベは、ジェラートは・・・。 地獄で自分を笑っているであろう仲間達を思い浮かべて、ギアッチョはフンと鼻を 鳴らす。この任務の間だけは、面倒を見てやろう。ギアッチョは今、そう決定した。 コンコンという音に、ギアッチョは部屋の入り口を見る。断続的に続くその音は、 扉から発されていた。 「入りな」 という彼の声で部屋に入ってきたのは、ルイズだった。ギアッチョは彼女を確認すると、 すぐに視線を外してまた手すりにもたれかかった。ルイズはベランダまでやって 来ると、ちょっと心配そうな顔でギアッチョを見る。 「・・・ねぇ どうして負けたの?」 今朝の決闘で、ギアッチョはホワイト・アルバムを使いもせずに敗北した。まさか力が 使えなくなったのだろうか、なんて心配しているルイズである。 「ワルドの野郎を信頼するな」と言いかけて、ギアッチョは口をつぐんだ。ルイズが ワルドに向ける表情は、自分へのそれとどこか似ている。確定もしていないのに 迂闊なことを言うべきではないだろう。 何故そう思ったのか、そこに意識が至らないままギアッチョは言葉を返す。 「剣の練習だ」 「そ、そう・・・」 ルイズは納得したようなしてないような微妙な顔になるが、それ以上は何も 言わなかった。何も言わないまま、ギアッチョの隣で同じように手すりにもたれ かかった。ギアッチョはルイズに、不思議そうに一瞥を向ける。 「・・・何か用でもあんのか」 しかしルイズは答えない。色んな感情の入り混じった、結果としてどこか悲しげに 見える表情で、何も言わずに空を見ている。何か悩んでいるのだということは 容易に察しがついたが、言う気のないことを根掘り葉掘り聞く気はない。そこまで 考えて「根掘り葉掘り」についてブチ切れそうになったが、自制心をフルに活用して 抑え込む。空気を読んだギアッチョにあの世で仲間達は涙を流して喜んでいる かもしれない。 「・・・ギーシュ達は何をやってんだ」 何とはなしにそう尋ねる。ルイズは無理に笑顔を作ってそれに答えた。 「酒盛りしてるわよ 皆アルビオンへ行くのが楽しみみたい」 「遠足気分だな・・・あのガキ共はよォー」 そう言うギアッチョに、ルイズは「全くだわ」と笑う。二人して空を見上げたまま、 また静寂が流れ――、 「・・・・・・・・・私、結婚するの」 やがてぽつりと、ルイズはそう言った。 反応が気になって、ルイズはこっそりギアッチョを見る。いつもの無表情で、 ギアッチョは何も変わらず空を見上げていた。 「よかったじゃあねーか 憧れの子爵様だろうが」 ホントに喜んでいるのならこんな表情はするわけがない。そう分かっては いるが、彼女が一体何に心を囚われているのか全く分からないので彼としても そう言うほかはなかった。しかし何かを期待していたらしいルイズは、更に 悲しげな色を深めた眼を伏せて、一言「そうね」と呟いた。 これだからガキはなどと思いつつも、このままルイズを放置するのは気分が 悪い。仕方なく身体を起こすと、ギアッチョはルイズに向き直った。 「何を迷ってるんだか知らねーがよォォ~~ 言いたいことがあるなら言いな オレじゃあなくていい キュルケでもタバサでもギーシュでも、言いたい奴に ぶちまけろ あいつらなら真摯に聞いてくれるぜ・・・多分な 些細な感情のスレ違いから身を滅ぼしたバカをオレは何人も見てきた おめーがそうなっちまうのは気分のいいことじゃあねーからな」 己の眼を覗き込むようにしてそう言われて、数秒の葛藤の後、 頬を染めながら彼女は恐る恐る口を開いた。 「・・・・・・・・・あの ・・・・・・えっと・・・その ・・・・・・・・・じゃ、じゃあ言うわ・・・」 深夜の静寂に自分の心臓の鼓動が煩いほどに響き、ルイズは大きく 深呼吸をする。そうしてからその真っ赤な顔を怪訝な眼で自分を見ている ギアッチョに向けて、ルイズは怒鳴るような勢いで口を―― ズズンッ!! 開けなかった。素晴らしいタイミングで大地が鳴動し、ベランダの外に 二度と見たくなかった 巨大なシルエットが闇を切り抜いて姿を現した。
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未だに失神しているフーケを馬車の最後尾に乗せる。勿論彼女の杖はヘシ 折ってあった。彼女の足はギアッチョが未だに凍らせてあるが、そのくるぶし から下は見るも無残に砕けている。この有様では国中のスクウェアメイジが 集っても再生は不可能だろう。その惨状にルイズ達は少しフーケを哀れに 思ったが、彼女の所業を思い出してその感情を打ち消した。フーケは、今 キュルケが抱えているこの破壊の杖の使用法を知る為だけに自分達を おびき寄せ、そして使い方など知らないと解るや否や皆殺しにしようとした のである。おまけにその後も使用方法がわかるまでおびき出して皆殺しを 繰り返そうとしていたのだから、正に悪逆無道もここに極まれりといった ところだろう。その上、本来ならギアッチョは容赦なく彼女を全身凍結し あっさり粉砕していたはずだ。オールド・オスマンから生け捕りを指示されて いたからこそ、フーケは今生きていられるのである。両足の粉砕だけで 済んだのは、むしろ僥倖というべきであろう。――もっとも、どう考えても 彼女に死刑以外の判決が下されることはないだろうが。 そういえば、とタバサとキュルケに続いて馬車に乗り込んだルイズは 思った。先ほどギアッチョが珍しく驚いたような感情を露にして破壊の杖を 見ていた気がする。あの驚きようからすると、ひょっとして破壊の杖は 彼の世界の武器なのだろうか。そう思いながらまだ馬車の外にいる ギアッチョを見ると、彼はギーシュに声をかけているところだった。 「おい、ギーシュ」 後ろからギアッチョに呼ばれてギーシュは振り返った。 「なんだい・・・って 僕の名前・・・?」 感じた違和感の正体を口に出して、彼はギアッチョを見る。 「てめーもよォォ 助かったぜ ・・・そしてよくやった」 「・・・よくやった?僕が?」 面と向かって言われているにも関わらず、あのギアッチョが本当に自分に 言っているのか信じられずにギーシュはオウム返しに尋ねた。馬車の上で それを見ていたルイズ達は、思わず身を乗り出して話を聞いている。 「てめーのおかげでシルフィードに気付き・・・そしてあそこを突破できた」 ギアッチョはそう言ってギーシュを見据える。 「てめーの「覚悟」に敬意を表するぜ ギーシュ・ド・グラモン」 ギーシュはしばし呆然としたような表情でその言葉を噛み締めていたが、 やがてスッと姿勢を正すときびすを返して馬車に乗り込むギアッチョの 背中に向けて言葉を返した。 「ギアッチョ・・・君のおかげで僕は今ここにいる 君の全ての行動、 全ての言葉に僕は心から感謝を捧げよう!」 ギアッチョは何も答えなかったが、それでよかった。ギーシュは心の中で 彼にただ敬礼していた。 今度はちゃんと自分の横に座るギアッチョに気付いて、思わず顔が緩み かけたルイズは慌てて下を向いた。が、ルイズはそれと同時にしなければ ならないことも思い出していた。 ちらりと前に眼を遣る。ルイズの対面に座ったのはギーシュだった。 ルイズは口を開くが、言葉が出てこない。自分の為に命を賭けてくれた 彼らに謝らなければいけない、そして礼を言わなければならないのに。 自分のこんな性格を、彼らは理解しているだろう。だけどそれは逃避の 理由にはならないはずだ。拳を血が出そうなほど握り締めて、ルイズが 口を開こうと―― 「礼ならいらないよ」 その言葉に、ルイズは顔を上げてギーシュを見る。 「この世のあらゆる女性を守ることが僕の使命なのさ 僕はその使命を 果たしただけ 礼も謝罪もいらないのだよ」 その相変わらずキザったらしいセリフを受けて、デルフリンガーが言葉を 継いだ。 「俺もいらねーぜ そこの坊ちゃんじゃねーが俺も同じよ 誓いを果たした だけなのさ」 ギアッチョはギーシュとデルフリンガーを交互に見ると、やれやれと言った 顔で最後を締める。 「使い魔の仕事は主人の剣となり盾となることらしいからな・・・オレは 職務を忠実に遂行しただけってわけだ」 その言葉にギーシュがニヤッと笑い、喋る魔剣は陽気に笑った。ギアッチョは そのままルイズへ首を向けて言う。 「そういうわけだ・・・ おめーは黙ってその情けない顔を何とかしな」 そう言われて、ルイズは自分がまた泣き出しそうな顔をしていたことに気付き、 「・・・・・・うん・・・」 彼らへの無数の感謝を心に仕舞い、ルイズはまた顔を下げた。 キュルケはそんな彼らを少し羨ましげに見つめていたが、ふとあることに 思い当たって声を上げた。 「・・・そういえば、皆乗ってるけど誰が運転するのかしら?」 その声に皆が顔を見合わせる。一般的に、御者というのは平民の仕事である。 馬を駆ることはあっても、馬車の運転となればそれはまた違った技術が 必要になるのだった。馬に乗ったことすら数えるほどしかないギアッチョなどは 更に論外である。馬車を捨ててシルフィードに乗るしかないだろうか、と皆が 思案していた時、 「ならばその役目、僕が引き受けようじゃないか」 ギーシュが御者に名乗りを上げた。 「なぁに、こう見えても僕はグラモン家の男、馬車の御し方ぐらい多少の心得が あるのさ」 出来るんだろうなという皆の視線に余裕の表情で答えると、ギーシュは手綱を 握った。 そういうわけで今、一行を乗せた馬車は一路トリステイン魔法学院へと 向かっている。なるほど、ギーシュは確かに馬の御し方に「多少の」心得が あるようだった。あっちへふらふらこっちへふらふら、そのうち路傍の木に ぶつかるのではないかというぐらいテクニカルな運転をしてくれる。 一度などは横転しそうなほどに車体が傾き、「いい加減にしろマンモーニッ!」 とギアッチョに怒鳴られていた。呼び名が戻ってすこぶる落ち込んでいる 様子のギーシュに哀れむような視線を送ってから、キュルケは聞きたかった ことを尋ねることにした。 「・・・ねぇギアッチョ あなたって一体何者なの?」 「ああ?」 「あなたがただの平民じゃないなんてことは誰が見ても解るわ あなたの魔法は どう見ても私達のそれとは違うし・・・あなたはたまにまるで貴族なんてものが いない場所から来たかのような振る舞いをするもの 一体あなたは何者?そして 一体どこからやって来たの?」 キュルケはギアッチョを見つめる。ギーシュは聞き耳を立て、タバサも本を 閉じて彼を注視していた。 「生徒達の間で あなたがなんて呼ばれてるか知ってる?」 「・・・しらねーな」 ギアッチョの両目を覗き込んだまま、キュルケは続けた。 「『魔人』だそうよ」 「なるほどな」とギアッチョは薄く笑う。 「得体の知れない魔法を使う異端者は、貴族でも平民でもないってわけか」 ルイズは周りを見渡す。キュルケ達の眼は、依然一瞬たりとも外れること なくギアッチョに注がれていた。ルイズは最後に隣のギアッチョに顔を向け、 彼が深く黙考していることに気付いた。 ギーシュと決闘をした時、ギアッチョはキュルケに確かにこう言った。「オレが 何者なのか話してやってもいい」と。しかしそれはあくまでさっさと方法を 見つけてイタリアに帰るつもりだったからである。リゾットがどうなったか・・・ 恐らく既に決着がついている今、そしてギアッチョ自身の心が変化を始め、 彼とその周囲との関係が変わって来た今、簡単に自分の正体をバラしても いいものだろうか、と彼は考えている。ルイズは彼に、不穏分子は粛清される 可能性があると言った。キュルケ、タバサ、そしてギーシュ・・・ギアッチョは 彼らと幾度か行動を重ねて理解していた。こいつらはきっと、いつでもルイズの 味方になってくれるだろうと。しかし情報というものはどこから漏れるか解らない。 万一自分の身に何か起これば、自分に依存してしまっているルイズはきっと打ち のめされるだろう。そこまで考えて、ギアッチョは知らず知らずのうちにルイズの 心配をしていた自分に気付いた。バカかオレは、と彼は心中で毒づいたが―― 「・・・今度 話してやる」 結局どうしていいものか判断のつかないまま、彼は答えを先延ばしにした。 キュルケ達は、しかしそれでも満足していた。「今度」話してくれるというのだ。 「今度」、たった二文字の言葉だが・・・そこには様々な意味が込められて いる。今は話せないが、自分達はそれを話すに足る人物だと。いずれ話せる 時が来るまで待っていろと。彼女達は、それで満足だった。